総務省の2019年9月末の調査によると、
テレワークを導入している、または具体的に導テレワークを導入する予定のある企業は29.6%にも上っています。
上記調査はコロナ禍前の調査であるため、現在は、テレワーク導入企業・それを予定する企業が大幅に増加していると予想されるところです。
さてこのテレワークですが、上司が部下の労働時間の管理がしにくいことから残業代が出ないと思われがちですが、テレワークであっても残業代が出ることがあります。
- テレワークの残業代
- 在宅勤務で残業するときの注意点
につき弁護士が解説します。
そもそも残業の定義とは?
テレワークの残業代が出るかどうかを考える場合、まず労働基準法で定められた残業の基本的な定義や考え方を知っておく必要があります。
まず、残業とは、所定労働時間を超えて仕事をすることをいいます。
所定労働時間とは、会社の就業規則や労働契約で定められた労働時間(定時)のことです。
一般的には超過勤務と呼ばれることもあります。
例えば、次の場合が残業にあたります。
- 1日の所定労働時間を超えて仕事をし続ける
- 休日出勤
- 始業時間よりも早く働き始める
法内残業と法外残業
残業には、法内残業と法外残業の2つがあります。
(1-1)法内残業
法内残業とは、労働基準法で定める法定労働時間(原則1日8時間、1週間40時間)の範囲内で、その会社の所定労働時間を超えて行なわれた残業のことです。
この場合、社内の労働時間を超過していますが、労働基準法の労働時間が超えていませんので、会社側に労働基準法上の割増賃金の支払い義務はありません。
もっとも会社が独自に、法内残業に対しても、社内で決めた割増賃金を支払うことは可能です。
そのため、法内残業に対する残業代につき、
- どの程度割り増すのか(所定労働時間内の賃金×1.25倍など)
- それとも所定労働時間内の賃金と同じ単価にするのか(所定労働時間内の賃金×1倍)
については、企業によって異なります。
(1-2)法外残業
法外残業は、法定労働時間(1日8時間、1週間40時間)を超えて行なわれた残業のことです。時間外労働とも呼ばれます。
法定労働時間を超えて労働者に労働をさせる場合(時間外労働の場合)や、法定休日に労働させる場合(休日労働の場合)には「36(さぶろく)協定の締結」と「所轄労働基準監督署長への届出」が必要となります。
36協定とは、「時間外・休日労働に関する協定届」のことをいいます。
36協定を締結するためには、使用者と、全労働者(パートやアルバイトを含む)の過半数で組織する労働組合(過半数組合)が書面による協定をする必要があります。
過半数組合がない場合は労働者の過半数を代表する者(過半数代表者)と、書面による協定をする必要があります(労働基準法36条1項)。
(1-3)法外残業などをした場合の割増率
法外残業(時間外労働)などをした場合の基本的な割増率は次の通りです。
※1 次の企業(中小企業、以下同じ)は、2023年3月末までは、割増率は1.25倍以上です。
- 小売業:資本金5000万円以下または常時使用する労働者が50人以下
- サービス業:資本金5000万円以下または常時使用する労働者が100人以下
- 卸売業:資本金1億円以下または常時使用する労働者が100人以下
- その他:資本金3億円以下または常時使用する労働者が300人以下
※2 中小企業では2023年3月末までは、割増率は1.5倍以上です。
テレワークでも残業代は出るの?
テレワークでも、残業が発生していると認められれば、残業代が発生することがあります。
テレワークは、情報通信技術を活用した時間や場所にとらわれない柔軟な働き方の総称です。
例えば、オフィスに行かずに、インターネット回線につないだパソコンを使って自宅で仕事することがテレワークにあたります。
一般的には、リモートワークやモバイルワーク、サテライトオフィス勤務なども、テレワークに含まれます。
テレワークは労働基準法などで定められた法律用語ではありません。
テレワークをする人たちは、雇用形態や働く場所、時間なども様々です。
したがって、テレワークをひと括りで「残業代が出ない・出る」という結論は出せません。
そのため、自分が後述するテレワークでも残業が認められる条件に該当するかを確認する必要があります。
テレワークでも残業代を請求できる条件とは?
テレワークで残業代の不支給問題が生じやすい理由は、社内勤務と違って、上司や同僚が作業内容や時間などの実態をつかみにくいからです。
そのため、テレワークで残業代を請求するには、「会社からの指示どおりに仕事をこなした結果、やむを得ず残業が発生してしまった」と評価できる必要があります。
テレワーク時に残業代が支払われるかどうかの目安となる条件は、以下のとおりです。
※なお、以下の条件に当てはまらない場合でも残業代請求できることもあるため、個別具体的ケースについては専門家に相談しましょう。
(1)雇用型の働き方である
残業代請求の基本条件は、「企業から雇用されている」ことです。
企業と雇用契約を結んでいる正社員やアルバイトなどは、労働基準法の適用対象となります。
これは、テレワークという働き方になっても変わりません。
一方で、社外の人間に一部の仕事を任せる業務委託契約の場合は、フリーランスや個人事業主の扱いになるため雇用契約もなく、原則的には労働基準法の対象になりません。
(2)就業規則にテレワークの定めがある
会社が定める就業規則に、在宅勤務やテレワーク、リモートワークの定めがあり、それを遵守しているかどうかも大切です。
就業規則にテレワークの定めがない場合は、勝手にテレワークを実施していると思われないように、上司や総務部などに事前にテレワークをしてよいか確認が必要です。
文書やメールなど、証拠が残る形でテレワークの許可をもらいましょう。
(3)PCを常時通信・応答可能にするなどして、勤務時間の証明ができる状態にあること
会社側に対してテレワーク時の残業代を請求するためには、自宅であってもサボることなく仕事をしていることの確認や証明が必要となってきます。
ただし、上司と部下が机を並べているわけではないため、テレワークでは確認が難しいです。
したがって、多くの企業では自宅勤務中にパソコンを常時通信可能な状態にして、いつでも指示や連絡を受けられるようにすることを義務付けています。
また、労務管理のためパソコンの画面の記録を取っている企業もあります。
離席が多すぎて、上司や同僚からの連絡や指示を受けられないことが多い場合は要注意です。
参考:テレワークではじめる働き方改革 テレワークの導入・運用 ガイドブック|厚生労働省
(4)会社側の具体的な指示による作業をしている
会社側が残業代を支払うには、具体的にどのような仕事でそれだけ多くの作業時間がかかっているのかの確認もしたいものです。
残業対象となった作業が、会社側からの指示によるものかどうかも、大事な判断基準になってきます。
例えば、上司から与えられた仕事であるものの、個人的なこだわりによって求められている以上のブラッシュアップを行ない、その作業だけで5時間もの残業をした場合について検討してみましょう。
この事例では、「個人的なこだわり」と「求められている以上の作業」によって、「会社側からの指示の範囲を超えている」として、残業代請求が認められない可能性があります。
テレワークの残業代を得るために労働者が実践すべき3つのこと
テレワークは、上司と部下が互いの作業状況を目視できないことで、残業代請求の問題が起こりやすい働き方でもあります。
この問題の解消には、残業をする従業員側でも3つのポイントを徹底することが大切です。
(1)上司に残業の許可を求める
あまり残業代を払いたくない会社の場合、互いの状況が見えないテレワークで勝手に残業をすると、割増賃金の請求時に「残業の許可をしていない」と言われる可能性があります。
このようなトラブルを防ぐには、残業をする前に上司に「この作業が終わらないので、◯時間ぐらい残業をしてもいいですか?」と具体的な確認をするとよいでしょう。
この許可を得ることで、残業代請求もしやすくなります。
(2)上司に業務報告を行う
テレワークの場合、上司が部下の作業進捗や状況を把握しにくい傾向があります。
作業内容や具体的な指示の認識を合わせるためにも、社内以上のこまめな報告や連絡が必要になってきます。
メールやチャットによる定期報告によって、そろそろ残業が必要な状況であることのアピールにもなります。
(3)残業時間の証拠を残しておく
会社側から支払われない残業代の請求には、どのような環境で仕事をしていても、時間外労働の記録や証拠が必要になってきます。
テレワークの場合、緊急性の高い作業の指示は電話で入ってくることもあります。
この場合に「上司からの指示で残業が必要となる作業を行なった」という記録がなければ、割増賃金の請求時に言った・言わないのトラブルになることもあります。
こうしたトラブルを防ぐためにも、残業な必要な仕事が依頼された日時や、メールや電話の内容などを、1分単位で正確に、そして詳細に記録として残しておくとよいです。
業務上のメールは削除せずに保存しておくとよいでしょう。
【まとめ】テレワークの残業代請求でお困りの方はアディーレ法律事務所へご相談ください
テレワークの残業代は、雇用型の働き方で就業規則にテレワークの定めがあり、会社側から指示された具体的な作業をしているなどの条件に該当しているときに基本的に請求可能となります。
テレワークの残業代請求でお困りの方は、アディーレ法律事務所へご相談ください。
弁護士に相談に来られる方々の事案は千差万別であり、相談を受けた弁護士には事案に応じた適格な法的助言が求められます。しかしながら、単なる法的助言の提供に終始してはいけません。依頼者の方と共に事案に向き合い、できるだけ依頼者の方の利益となる解決ができないかと真撃に取り組む姿勢がなければ、弁護士は依頼者の方から信頼を得られません。私は、そうした姿勢をもってご相談を受けた事案に取り組み、皆様方のお役に立てられますよう努力する所存であります。